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浦和地方裁判所 昭和25年(行)5号 判決

原告 小沢潤一

被告 堀兼村農地委員会・埼玉県農地委員会

一、主  文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告堀兼村農地委員会が昭和二十二年十一月七日別紙目録記載の農地について定めた買収計画、同農地委員会が同年十二月三日右買収計画に対する原告の異議を却下した決定、被告埼玉県農地委員会が昭和二十三年一月二十三日右買収計画に対する原告の訴願を棄却した裁決はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、

原告は肩書居村において自作農業を営む者であるが、被告堀兼村農地委員会(以下村農地委員会と略称する。)が、昭和二十二年二月行われた所謂農地一筆調査施行のため同村内各部落について農地調査をした機会に、同村上赤坂部落につき同部落居住の農地委員落合忠治や調査員等に自作農創設に伴う農地の配分調整を一任したところ、同訴外人は地主層の農地委員であるところから同部落の地主等が小作地を不法に取上げるのを応援し、小作人等の不服を懐柔するため、取上地に代るべき農地を得て買収した上でこれ等小作人等に分割して売渡そうと企て、右代償地として原告の自作地に著目し右小作人等に対しこれを買収の上分割売渡す旨を約束し、原告が勤勉で他農家以上の収穫を挙げ主食の供出割当をも完納している自作農であるに拘らず、別紙目録記載の原告自作地を農耕業務不適正地として自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条第五項第一号の規定によりこれを認定買収する買収計画を村農地委員会に提案した。のみならず同訴外人は上述の企図を達成するに必要な面積の農地を獲得するため、自創法第三条第五項第一号、同条第一項第三号の規定に基く昭和二十二年農林省告示第七十二号により中央農地委員会が埼玉県につき定めた基準面積が三町であるに拘らず、(仮りに埼玉県農地委員会が同法第三条第三項の規定に基く埼玉県第一地区につき右三町の基準面積に代るべき面積を二町九反と定めたとしても、)これ等基準面積を割つて原告に対し二町七反八畝二十歩を保有させたに過ぎず、しかも買収地を特定するにつき、買収後に保有地の農耕をできる限り適正に行い得るよう考慮すべきであるに拘らず、良地を狙つて買収計画に組入れ、地目は畑であつても事実は不毛地や林野等の悪地を保有地として残したのである。原告はこの提案を知り落合忠治に対しその修正を要請したが、落合は「金一万円出せば考慮する」と金員の供与を求め、原告がこれを拒絶するや遂に修正に応じなかつた。ところが当時村農地委員会は会長北田仙太郎以下十名の構成員の過半数が農地の買収売渡等の職務に関し収賄その他不正行為を犯して汚職しているし、又原告が本件買収計画樹立後において村農地委員会の買収売渡計画の不当を非難し会長北田仙太郎に対しその公正な修正を要請するや、落合委員等は原告に対し暴行、脅迫を加え且つ村八分を行うような有様であつて、前述の買収計画が落合忠治から提案されるや、村農地委員会は右提案がそもそも上叙のように不法な動機から出ていること、又基準面積についても違法のあること、買収対象地の選定の不当なことを知りながら昭和二十二年十一月七日本件農地につきさらに原告の農耕業務を不適正であると歪曲して認定買収計画を定め、同月八日から同月十八日までの間公告し、関係書類を一般の縦覧に供した。原告は同月十八日本件農地中別紙目録(二)乃至(五)記載分につき異議を申立てたが、村農地委員会は同月二十一日異議却下の決定をしたので、原告は被告埼玉県農地委員会(以下県農地委員会と略称する。)に対し訴願申立をしたところ、県農地委員会は昭和二十三年一月二十三日訴願棄却の裁決をして右裁決書は同年二月二十日頃原告に送達された。然しながら、本件買収計画は前叙の通りその過半数が汚職不正を敢て犯すような農地委員により構成せられた当時の村農地委員会が提案者の農地委員の不法な動機を認識しながら事実に反してことさらに原告の農耕業務を不正と歪曲認定し、あまつさえ法定の基準面積すら残さず、しかも買収対象地としてわざわざ良地のみを選別特定し以て不法に原告の権利を侵害したものであるから法律上当然無効というべきであり、このような無効な買収計画をあくまで適法正当として原告の異議を却下した村農地委員会の決定も亦法律上無効であるべく、又県農地委員会は原告の訴願申立に対し村農地委員会の提出に係る虚偽の意見書の記載に災され審査を尽くすことなくして訴願棄却の裁決をしたのであつて、無効な買収計画を適法正当とした点と相俟つてこれ亦法律上無効な裁決といわねばならない。よつて茲に村農地委員会の本件買収計画及び異議却下決定並びに県農地委員会の訴願棄却決定の無効であることの各確認を求めるため本訴請求に及ぶ。なお、被告等が本件農地についての原告の農耕業務を不適正なりと主張する事由事実中、原告が年期雇一名を雇用している点を認める外、すべてこれを否認する。と述べた。(立証省略)

被告等指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実中、原告が堀兼村で自作農業を営んでいること、村農地委員会が昭和二十二年十一月七日別紙目録記載の原告自作地について農耕業務不適正農地として自創法第三条第五項第一号に基き認定買収計画を定め、原告主張の日時に公告及び縦覧の手続を完了したこと、原告がその主張通り異議及び訴願を経たこと、村農地委員会が同月二十一日異議却下の決定をし、県農地委員会が昭和二十三年一月二十三日訴願棄却の裁決をして右裁決書が原告主張日時原告に送達されたことはこれを認めるが、訴外落合忠治が原告主張のように堀兼村上赤坂部落内の地主等の小作地不法取上げを応援したとか、これを不服とする小作人等に対する懐柔策のため、代償農地として原告の自作地を買収して不服小作人等に分割売渡すことを約束し、そのため必要な面積の別紙目録記載の原告自作地につき認定買収計画を村農地委員会に提案したという点は不知、その余の主張事実はすべて否認する。即ち原告の本件農地についての農耕業務は適正でない。何となれば原告はその自作地を効率的に耕作するに十分な自家労力を有しない。原告世帯の従農者は昭和二十二年頃においては原告(当時四十四歳)、妻(四十六歳)、二女子(二十三歳及び二十一歳)、長男(十八歳)であつて、外に年雇人一名(二十歳)を雇用しているが同人には年少から十分の義務教育をも受けさせず過重労働を強いて自家労力の不足を補つていたのである。堀兼村における年間平均稼働能力は成年男子で約六反成年女子で約四反であるから、原告世帯の自家労力は二町四反が相当であり、その余は年雇人の稼働力によつて補われてその農耕業務を保持しているに過ぎない。従つて原告の収穫量も同村の反当平均収穫量に比較して必ずしもその平均量に達しない。又原告の農耕業務は専ら手労働によつて行われ畜力をも機械をも使用していないので、本件買収によつて耕作面積が分割されても生産減退を必至としない。又自創法第三条の規定の適用については、農地の面積は土地台帳に登録した当該農地の地積によるのであつて、本件買収計画の結果原告の保有する自作地面積は、土地台帳上に登録されている総面積二町九反であるから、堀兼村を含む埼玉県第一地区につき定められた基準面積二町九反を割つてはいない。買収対象農地の特定についても、本件買収計画は原告の自作地の中原告居宅の前後に集団している農地を保有地に残して、原告居宅から離れて分散しているもののみを選定して特定したのであつて、原告主張のようにことさらに良地を狙つて買収したものではない。

これを要するに本件買収計画は原告の自作農としての適否、自作地の現状、反歩等につき充分審査を遂げた上樹立されたもので何等違法な点はなく、法律上の無効を来たすべき原因事実も存在しないのであるから適法正当であり、これを是認した村農地委員会の異議却下決定及び県農地委員会の訴願棄却裁決も亦適法正当であつて、原告の本訴請求は失当である。と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が堀兼村に居住する自作農であること、村農地委員会が昭和二十二年十一月七日別紙目録記載の原告の自作地について自創法第三条第五項第一号に該当する農耕業務不適正地として認定買収計画を定め、公告及び縦覧の手続をしたこと、原告がこれに対し異議を申立て村農地委員会が同月二十一日異議却下の決定をし、更に原告が訴願を申立て県農地委員会が昭和二十三年一月二十三日訴願棄却の裁決をして右裁決書が原告主張日時に原告に送達されたことは当事者間に争がない。

原告は先ず本件買収計画が樹立されるに至つた発端につき訴外落合忠治が昭和二十三年二月の所謂農地一筆調査施行の際、自らはいわゆる地主層であるところから原告居住の堀兼村上赤坂部落の地主等が小作人から小作地を不法に取上げるのを応援し、これに不服な小作人等を懐柔するため小作人等の失うべき農地に代る代償地を得てこれら不服者に分割売渡す目的からここに原告の自作地に著目し、これを買収の上分割売渡すことを右小作人等に約束して、原告の自作地中右企図達成に必要な面積につき認定買収計画案を立てて村農地委員会に提出した。と主張するので、この点について審案するに、証人落合忠治の証言によれば、堀兼村上赤坂部落では昭和二十二年の秋農地開放に伴つて生ずる農地配分等につき、農地委員、調査班長、及び同部落内十戸に一人の割合で選出された相談役等が集会協議したが、その席上同部落居住の農地委員落合忠治が訴外村田繁治の小作につきこれをその地主松本良三に返還してその代り繁治の居宅近傍に在る原告自作地を買収して繁治に売渡す案を提示したことを認めることができるのであるが、右落合忠治の証言に徴するところの提案は当時すでに原告の自作農経営が不適正であると地元民一般に考えられていたし、村田繁治が松本良三から小作していた農地と原告の農地を比較して右のように配分することが農耕上合理的であると落合忠治において考慮した結果であることが一応肯けるのであつて証人村田繁治の証言中村農地委員会で未だ計画樹立に着手しない昭和二十二年二月頃落合忠治が右村田の家に出かけて原告の農地買収を条件に松本良三への小作地返還を勧めたという趣旨の部分は落合忠治の証言に照してたやすく信用し難くその他落合忠治が同部落の地主等が小作地を不法に取上げるのをことさら応援し不法取上げに不服な小作人等に対する懐柔策として取上地の代償地とするというだけの理由で原告の自作地の買収、売渡を考慮するようになつたというような特に不法な動機が右落合の提案に潛んでいた事実については、これを認めるに足る証拠はない。従つて又村農地委員会が原告主張のような不法な動機を知りながら本件買収計画を定めたことはこれを認めるに由ないのである。

次に、原告は村農地委員会が本件農地につき原告の農耕業務が適正であるに拘らず、これを不適正として認定買収計画を定めた、と主張するので、本件農地についての原告の農耕業務が適正であるかどうかについて審究するに、先ず成立に争のない甲第一号証並びに原告本人訊問の結果によれば、原告が昭和二十一年度乃至二十三年度における大麦、小麦、甘藷、馬鈴薯等の主食の供出割当を完納している事実を認めることができる。

然しながら証人村田伴治郎、同松本太郎の各証言によれば、昭和二十二年当時における原告世帯の農耕業務は畜力、機械力によらない人力のみで行われ、稼働人員は原告、原告の妻、女子二人の外当時未成年の長男の五名であり、別に東北地方出身の年期雇一名がいたこと、原告の居村上赤坂部落における畜力、機械力によらない人力だけの年間平均稼働能力は成年男子で約六反、成年女子で約四反であること、原告及び長男の稼働能力は比較的弱く、原告世帯の農耕業務は主として前記年雇の比較的強い稼働力に依存していたことが認められ、従つて原告世帯の綜合稼働力に年期雇の稼働力を加えても総計三町を相当とし、一方本件買収農地の総面積が別紙目録記載の通り合計四反六畝十三歩であることは当事者間に争がなく、原告が保有した農地の総面積が土地台帳上合計二町九反であることは後に認定する通りであるから、本件買収前の原告所有の自作地総面積は三町三反六畝十三歩であり、相当稼働力と耕作面積との均衡は破れていたものといわねばならない。又原告は原告が他農家以上の収穫を挙げていると主張するけれども、成立に争のない乙第一号証によれば、原告が村農地委員会に届出た昭和二十一年度における原告の主食収穫量は、小麦七石六斗七升(作付面積四反三畝)、大麦十七石二斗(作付面積一町一反三畝)、陸稲四石八斗四升(作付面積四反四畝)、甘藷三千五百二十貫匁(作付面積七反八畝)であり、これを証人松本太郎の証言によつて認められる堀兼村上赤坂部落の昭和二十二年頃における反当平均収穫量大麦五俵、小麦四俵、陸稲二俵半乃至三俵、甘藷四百貫乃至五百貫に比較すれば、年度のずれを考慮に入れるとしても、原告の収穫量が特に他農家以上であつたことを認めるに足らず、却つて証人村田伴治郎及び同松本太郎の各証言によれば、原告の自作地においては前認定のような稼働力の不足から耕作上の手不足を来たし麦蒔の時期に他農家に比して播種の手遅れを余儀なくされることなどあつて、やがてはそれが収穫量や作柄に影響して供出農産物にとかく量目不足や規格外不良品の混入が指摘されたような事実のあつたことが窺われるのであつて、稼働力、収穫量、作柄等についての以上の認定は、原告本人訊問の結果によつてもこれを覆えすに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。これによつて判断すれば、原告は供出は完納しているけれども、畢竟、本件農地を効率的に耕作するに充分な自家労力を有していないものというべきである。そうして本件農地が原告の自作地全体から分割買収される結果、残された保有農地の生産が減退必至となる等本件農地についてなお原告の農耕業務が適正であるとすべき証左は認められない。

次に、原告は本件買収計画がことさらに原告の自作地中の良地を選別して買収計画に組入れ悪地を保有地に残したものである。と主張するので、この点について考察するに、本件買収計画における買収対象が原告にとつて良地であることは、原告本人の供述によつて窺知し得るのであるけれども、さりとて村農地委員会がことさらに害意を以て原告主張のような買収対象地の特定をしたことを証明するに足る証拠はなく、却つて、証人松本太郎の証言によれば、本件買収計画においては、原告の自作地中原告の居宅の前後に集団している農地を原告の保有地として買収計画から除き、原告の居宅から離れて分散している農地を選定して買収の対象としたことを認めることができるのであつて、このことはそれ自体でむしろ原告の保有地の農耕業務の適正を期する所以であるとも考えられるし要するに本件買収対象地の特定について違法があるとするだけの証拠はないものといわねばならない。

進んで、本件買収計画に法定の基準面積を侵害した違法があるかどうかについて勘案するに、自創法第三条第五項第一号、同条第一項第三号の規定に基く中央農地委員会が埼玉県につき定めた基準面積は昭和二十二年農林省告示第七十二号によれば三町であり、県農地委員会が自創法第三条第三項の規定に基く同年埼玉県農委告示第十号により埼玉県第一地区(堀兼村を含む)につき右基準面積三町に代るべき面積を二町九反と定めたことは、当裁判所に明かである。而して自創法第三条の規定の適用については、農地の面積は土地台帳に登録した当該農地の地積によるべきことは自創法第十条により明白であるところ、成立に争のない乙第二号証の一及び二によれば、本件買収計画において原告の保有した自作地として総面積二町九反が土地台帳上に登録されていることを認めることができるから本件買収計画には、法定基準面積を侵害した違法はないのである。

原告は、本件買収計画樹立当時の村農地委員会が会長北田仙太郎、委員落合忠治以下その構成員の過半数が、その職務に関し収賄その他の不正行為を犯し汚職しているのであるから、そのような委員会が定めた本件農地買収計画は法律上当然無効である、と主張するので、この点につき勘考するに、証人村田三平及び同落合忠治の各証言を綜合すると、前認定の通り堀兼村上赤坂部落において昭和二十二年秋、農地開放に伴つて生ずる農地配分につき農地委員落合忠治、調査班長松本太郎、相談役村田伴治郎が集会協議した相談会において、昼間麦蒔等の農耕に疲労した後、夜間に集会して協議を重ねる関係上、勢い集会者が酒を持ち寄ることがあり、このようなときに、同村の商人等で特別に酒を寄附した者があつたことが認められるし又右相談会の終了後に慰労宴が催され、農地配分の計画上で有利な結果を受けることになつた者等の内で酒や煙草を右のような集りの際寄附した者の若干あつたことも推測できないわけではないが、このような行為に一応批判の余地のあることはともかくとしてこれを以て直ちに農地委員落合忠治の汚職行為と断定するわけにはいかない。又証人北田仙太郎の証言によれば、当時の村農地委員会長北田仙太郎が昭和二十二年二月頃訴外森田治助から仙太郎次男の婚礼用として酒二升、別の時に日用の精米五升の各融通を受けたこと、又同年四月同人が村会議員選挙に立候補した際その費用名義で森田から合計金二千円を、落合忠治がその頃同人から農地委員会に対する寄附金名義で一万円を、右落合や、豊泉、渡辺、岩田等の農地委員もそれぞれその頃右森田から金三百円宛を提供されいずれも受領する理由のない金であることが判つていたのに拘らず即座にこれを拒むこともしなかつたことを認めることができるのであるが、右証人の証言によると、森田治助は同村居住の地主であるが当時同人の農地は当然買収になることに予定されていたものであり且落合忠治に対し提供された村農地委員会えの寄附金一万円についてはその取扱につき落合から相談を受けた会長北田仙太郎において受取る理由のない金として落合に対し直に森田へ返却することを命じ落合よりその通り実行されたこと、北田に提供された金二千円、及び落合、豊泉、渡辺、岩田等が提供された金三百円宛についてもその当時各委員とも森田の行為を迷惑として相談の上これを返却することに一決しそれぞれ返却したことが認められる。然し北田仙太郎が証言中においてなした告白を待つまでもなく当時はすでに農地改革実施の途中であつたのであるから右北田村農地委員会長以下各委員としてはいやしくも世人の誤解を受ける虞れのある行動は極力避けるのが農地委員会の信用保持の上からいつても当然の義務であり同人等の以上の行為がこの点から見て甚だ遺憾な行動であつたといわねばならないが、このことから直ちにこれら各農地委員を以て構成された村農地委員会が適法正当な行政処分をすることが一切期待され得ず又は適法正当な行政処分をすることのできる資格や権能を失い、従つてその定める農地買収計画を法律上当然無効とすべきであるというようなことを軽々に断じ得べきではない。そうして、証人村田三平、同村田繁治、同尾形半平の各証言その他本件に顕れた全証拠によつても、村農地委員会の構成員について、他に噂の程度以上に確たる汚職行為のあつたことを認めるに足る証拠は存在しないのであり、本件農地買収計画が汚職の村農地委員によつて構成された委員会によつて定められたという事実は遂にこれを認めるに由はない。

なお、原告が村農地委員会の本件買収計画決定前に農地委員落合忠治に対しその修正を要請したところ、落合が「一万円出せば修正する」と放言して原告が金員の提供を拒絶するや、その予定通りの買収計画を決定したとの原告主張事実についてはこの点に関する原告本人の供述は信をおき難く他にこれを認めるに足る証拠はない。

原告は又本件買収計画樹立後において原告が村農地委員会の買収、売渡計画の不当を批判し、会長北田仙太郎に対しその公正な修正を要請するや、落合忠治等は原告に対し暴行、脅迫を加え、且つ村八分を行つたのであるから、このような農地委員の構成した当時の村農地委員会の定めた本件買収計画は法律上無効である、と主張し証人村田三平、同落合忠治、同村田繁治の各証言に徴すると本件買収計画樹立後一年を経過した昭和二十三年の秋頃原告その他数名より農地開放の問題につき村農地委員会その他に度々不服を唱えたことが原因で部落の者から厳しい批判を受け一時原告等が同人等の間から自然仲間外れにされるようになつた事情は窺われるのであるが、原告等がこれ以上の暴行、脅迫等を受けたという点についてはこの点に関する原告本人の供述は信用し難く、仮に部落の一部の者に当時多少行過の行為があつたとしても、苟も一旦適法に定められた買収計画が、そのような後に生じた事実によつて遡つて法律上当然無効となる理由はない。

以上認定のように本件買収計画が法律上無効となる原因事実は結局認めるに由なく、村農地委員会が原告の農耕業務の適正なりや否や、及び買収対象地の特定について認定を誤つた違法も存しないのであるから、本件買収計画は適法正当であり、これを是認して原告の異議申立を却下した村農地委員会の決定並びに右却下決定に対する原告の訴願申立を棄却した県農地委員会の裁決も亦適法正当であるといわねばならない。原告は県農地委員会が村農地委員会の提出した意見書に災され審査を尽くすことなく原告の訴願を棄却した、と主張するが、右事実を立証する証拠はないのであるから、右裁決はその手続上においても、無効を生ずる理由はない。

よつて原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決した。

(裁判官 大中俊夫 立岡安正 牧野進)

(目録省略)

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